2016年、今年も鳥インフルエンザで大量の家禽が殺処分されている。
スウェーデンでは20万の採卵鶏が殺処分され(*1)、オランダでは19万羽のアヒルが殺処分(*2)、ドイツでは16,000の七面鳥が殺処分(*3)、韓国では11月だけで245万7千羽(あひる41件、鶏10件)が殺処分(*4)された。
そしてここ日本では 高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された青森県で食用アヒル18,360の殺処分が11月29に開始し同日夜に完了した。これを皮切りに、次々と各地で鳥の殺処分が進んでいる。2010年度の9県24農場の185万羽の鶏が殺処分されているが、それに追いつく勢いだ。
日付 | 場所 | 殺害数 | 業種 | 飼育方法 | 鶏舎形式 | ウイルスタイプ |
2017/02/24 | 千葉県旭市萬歳 | 65,100 | 鶏卵 | 高床式バタリーケージ | 開放型(ロールカーテン、金網閉切) | |
2017/02/24 | 宮城県栗原市金成 | 222,300 | 鶏卵 | バタリーケージ | ウィンドレス | |
2017/02/04 | 佐賀県杵島郡江北町 | 68,800 | 鶏肉 | 密閉型平飼い | セミウィンドレス(ロールカーテン7 層構造、金網閉切) | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2017/01/24 | 宮崎県児湯郡木城町 | 166,200 | 鶏肉 | 密閉型平飼い | 開放型(ビニール、ロールカーテン、金網) | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2017/1/14 | 岐阜県山県市 | 81,500 | 鶏卵 | バタリーケージ | ウィンドレス | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2016/12/27 | 熊本県南関町 | 91,900 | 鶏卵 | バタリーケージ | ウィンドレス | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2016/12/18 | 北海道清水町 | 283,952 | 鶏卵 | バタリーケージ | セミウィンドレス(金網、防鳥ネット、ロールカーテン閉切) | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2016/12/19 | 宮崎県川南町 | 117,000 | 鶏肉 | 密閉型平飼い | 開放型(ロールカーテン、金網) | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2016/11/30 | 新潟県上越市 | 228,500 | 鶏卵 | 高床式バタリーケージ | セミウィンドレスとウィンドレス | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2016/11/29 | 新潟県関川村 | 315,300 | 鶏卵 | 高床式バタリーケージ | セミウィンドレス (ロールカーテン、金網、ビニールカーテン) | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2016/12/2 | 青森県青森市 | 47,000 | 鴨肉 | 密閉型平飼い | 開放型(ロールカーテン閉切) | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
2016/11/28 | 青森県青森市四戸橋磯部 | 18,000 | 鴨肉 | 密閉型平飼い | 開放型 | 高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型) |
合計 | 1,705,552 |
昨年2015年はアメリカだけで4800万の鶏と七面鳥が殺処分されている(*5)。
毎年繰り返される鳥のこの大量殺処分について、これはまさに、人類による動物への組織的な大量虐殺「ホロコースト」だ。
同じ人間に対して行われた大量虐殺とこれら鳥の大量虐殺が違うのは、人に対するそれが糾弾されるのに対して、鳥のそれが糾弾されないことだ。
鳥のホロコーストが糾弾されないのは、ほとんどの人がこの大量虐殺に対して罪があるからかもしれない。鳥の肉や卵を食べる人すべてが、このホロコーストに対して糾弾される立場にあるからだ。
誰だって糾弾されるのは好きではない。
しかし、私たちは立ち止まってこのホロコーストの責任を考えなければならない。
なぜこのような大量虐殺が定期的に行わなければならないのか。
なぜ狭い空間に数千、数万の動物がひとところに閉じ込められて飼育されているのか。
すでにこれまでに数億もの無辜の生き物が鳥インフルエンザを防ぐという目的で殺されているのだ。私たちの責任は重い。
このホロコーストをどうすれば止めることができるのだろうか。
ダニやネズミや人、埃を介して、また鳥の移動やカゴの出し入れの際に鳥インフルエンザウイルスはどこからでも出入りする。鶏舎の周りにネズミ捕り機を設置しても除糞用のベルトコンベヤーからネズミは入ってくるし、鶏舎内にはウジやハエもいる。それに高病原性鳥インフルエンザウイルスの生存期間は長い。感染している鳥の組織中や糞中あるいは水中で、特に温度が低い場合には、長期に生存する。鳥の糞中では、摂氏37度では6日まで生存することがあり、摂氏4度では35日以上生存することもある(*6)。
農林水産省が今年の高病原性鳥インフルエンザ発生を受けて通達した「家きん飼養者の皆様へ」には
とこのように書いてある。
しかし断言するが、これらのことをすべて行ったとしても、ウイルスの侵入を防ぐことは無理だろう。ネットや消毒は根本的な解決になっていない。
農林水産省は「強い農業づくり交付金」で高病原性鳥インフルエンザ等に対する防疫という目的で、閉鎖型で無窓構造のウインドウレス鶏舎に対して最大で半額の補助を行っている。しかしなぜウインドウレスが防疫対策になるのかという根拠は明確にではない(*7)。日本養鶏農業協同組合連合会もその特集記事「鳥インフルエンザの発生にひとこと」の中で「ウインドレス(閉鎖型鶏舎)と開放型鶏舎との安全性の違いはほとんどないものと考えられます。農水省の考え方に疑問をもたざるを得ません。」と書いている(*8)。
実際今回鳥インフルエンザが発生した農場は半分以上がウインドウレス鶏舎だ。
問題は鶏舎の構造ではないのだ。
問題は、私たちは鳥たちを不健康な状況においやっていることだ。それも膨大な数の鳥を。日本だけで常時数億もの鶏が飼育されている。面積の節約のために狭い場所に押し込められ行動の自由を制限され、ストレス下にあり免疫力の落ちた不健康で不幸な鶏たちはウイルスに対する抵抗力が低い。一羽が感染するとあっという間に狭い空間に大量に閉じ込められた他の鶏たちに感染してしまう。
採卵鶏ならば卵をたくさん産むように、ブロイラーならば短期間で成長するように、人間の都合で限界まで品種改変されている。人間に都合よく選択的繁殖をくり返されたこれらの鶏たちはもともと健全な状態ではない。そういった鶏たちが乾いて空中に舞い上がった糞や、アンモニアや埃の充満する鶏舎の中に大量に閉じ込められている。
日本では採卵鶏の1羽あたりのスペースはアイパッド一枚分、ブロイラーの1㎡あたりの飼養羽数は16羽という過密飼育。鶏舎の中で彼らは十分な運動もできず日光も当たらず自分の体の欲するものを選んで食べることもできず、毎日同じものを食べ採卵鶏ならばクチバシを切断され、ブロイラーならば良く太らせるために24時間照明が消されることがない。身づくろいもできず採卵鶏の羽はボロボロに剥げ、ブロイラーは体の急激な成長に肢が追い付かず、ヨタヨタと歩いてはすぐに座り込んでしまう。このような目にあっている鶏たちに免疫力も何もあったものではない。
答えは一つだ。
今のような工場型の大量飼育を止めるしかない。そしてそのために大量消費を止めなければならない。
はっきり言うと栄養学上は、いまのようにたくさんの卵や鶏肉を食べる必要はどこにもない。実際には食べるのを止めても大丈夫だ。止めてもいいけど止めることに不安を感じるという人は『チャイナ・スタディー 葬られた「第二のマクガバン報告』あるいは『ベジタリアンの医学』を読んでみるのもよいかもしれない。
しかしもし食べ続けるのならば、命を消費するものの責任としてその命がどこでどのように飼育され殺されたのかをきちんと知らなければならない。そして鶏に対して虐待的飼育を行っていないものを選択してごく少量購入することを心掛けなくてはならない。
食べるのを止めるか、あるいはごく少量だけ動物福祉に配慮したものを購入するか、二者択一だ。それ以外にこのホロコーストを止める方法はない。
「戦争をしてはいけない」「子供を虐待してはいけない」これと同じで、鳥に対する今のような扱いも「してはいけない」ことなのだ。そこに議論の余地はない。意識していようがいまいが、採卵鶏やブロイラーに対していま行われていることが虐待であることには間違いがない。そしてその虐待に加わっているのは生産者であり、首謀者は私たち消費者自身だ。
ホロコーストを止めることができるかどうかは、私たち自身の手にかかっている。
*1 Farm Journal「Europe Culls 400,000 Birds to Prevent Spread of Avian Flu」 2016.11.30
http://www.agweb.com/article/europe-culls-400000-birds-to-prevent-spread-of-avian-flu-naa-ashley-davenport/
*2 Nature World News「190,000 Birds Euthanized in the Netherlands to Avoid Bird Flu Outbreak」2016.11.28
http://www.natureworldnews.com/articles/32952/20161128/190-000-birds-euthanized-netherlands-avoid-bird-flu-outbreak.htm
*3 ロイター「Germany Culling 16,000 Turkeys Amid Bird Flu Outbreak」2016.11.24
http://fortune.com/2016/11/24/germany-turkey-bird-flu/
*4 農林水産省 韓国における高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型)の状況 (2016年11月以降) http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/161116Korea_AI_map.pdf
*5 ロイター「The US lost 48 million chickens and turkeys in the worst-ever bird flu outbreak — now egg prices are climbing even higher」2015.8.16
http://www.businessinsider.com/the-us-lost-48-million-chicken-and-turkeys-in-the-worst-ever-bird-flu-outbreak-now-egg-prices-are-climbing-even-higher-2015-8
より詳細な数は農林農林水産省を参照「米国の高病原性鳥インフルエンザに関する情報
(平成 27 年 7 月 31 日現在)」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/pdf/150731_us_ai.pdf
*6 横浜市衛生研究所 高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)について
http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/avianinflu1.html
*7 当法人が農林水産省に根拠を求めたところ、『科学的な裏付けがあるのではなく一般的にそう考えられている」という回答であった。
*8 日本養鶏農業協同組合連合会「鳥インフルエンザの発生にひとこと」
http://www.nikkeiren.jp/t_051001.html
(写真:日本のブロイラー養鶏場)
(写真:日本の採卵鶏養鶏場)